2007/9/25 火曜日

『ガンマンへ』

小森陽一日記 17:34:22

舞台挨拶を見ていて「疲れ気味だな」と感じた。だが、控え室に顔を出すと変らない笑顔がそこにあった。今回の役柄は孤独なガンマン、お似合いの役だった。時折覗かせる優しい目の光が実に彼らしいと思った――――。

伊藤英明―――、一言で言い表すと「いい奴」だ。熱くて、愉快で、子供みたいで、とても「いい奴」だ。初めて会った時からこの印象は変らない。今回は「スキヤキウエスタン ジャンゴ」の舞台挨拶で福岡にやって来た。丁度上京する前日だったので僕の予定も開いていたし、何より久し振りにゆっくりと話もしたかった。今年は「ジャンゴ」に始まって「輪違い屋糸里」、「孤独の賭け」、「ファーストキス」と休みなく仕事を続けてきた英明くん。さすがに勤続疲労は否めないし、この日もほとんど寝ていなかった。だが、話し出すとそんな疲れはどこへやら、次々に色んな事を話し、考え、そしてまた話し出す。まったく大したエネルギーだと思う。僕はいつもこのエネルギーを分けてもらっている気がする。

ただ、どうか身体にだけは気をつけて。君の替わりは誰にも出来ないんだから。それじゃまた近いうちに―――。

2007/9/18 火曜日

『贈り物』

小森陽一日記 17:38:52

皆さんはどういう基準で贈り物を選ぶだろうか。僕は自分の住んでる地域の特産物を送るか、もしくは相手の好みを知っていればそれを選んで送るようにしている。これまで相手から「結構な物を頂戴しまして」と言われてきた。概ね喜んでいただけているのではないかと(勝手にだが)思っている。ただ、贈り物をして「なんでこんなしょうもないもんを」と面と向って言われる事はまずない。言う人も言われた人もほとんどいないと思う。でも僕はそんな数少ない経験をした事がある………。

若かりし頃、NHKのドキュメント番組を作っていた時だ。ある有名な禅寺に取材を申し込みに行った。最初はあっさりと断られた。二度目で少しだけ話を聞いて頂いた。そして三度目、ようやく老師と呼ばれる高僧にお会いする事が出来た。僕は懸命に番組の趣旨を説明した。したのだと思う。緊張していたので何を話したのかよく覚えていない。数日後、お寺から電話があった。「許可します」との返事だった。僕は嬉しくなってすぐにお礼を言いに向った。途中、和菓子屋さんに立ち寄って、お土産にと餡子入りのお餅を買った。本堂へと続く石畳をお土産を抱えて歩いて行く。そろそろと玄関を開けると、これまでの張り詰めた空気がまるで嘘のようになくなっていた。老師を始め皆さんが僕を穏やかに迎えて下さった。もちろん自然と笑顔になる。舌も滑らかになり話も弾んだ。その時だ、小僧さんがお皿を抱えて現れた。見ると僕がさっき買ってきたお土産の餡子入りお餅が乗っていた………。
  
「いただきましょう」
そう言って老師が僕を見る。僕は戸惑った。なぜって―――、この世で餡子とお餅ほどキライなものはないからだ。僕の一瞬の戸惑いを老師は見逃してはくれなかった。
「なぜ食べないんですか?」
「………」
神様、仏様、お坊様の前で嘘はいけない。そう思った僕は正直に理由を話した。
「バカモン!!」
突如、耳元で鐘を叩かれたような大音響が響く。呆然とする僕に老師は言った。
「あなたは自分の食べれないものを贈り物に選んだのか?自分が美味しいと思えないものも贈り物にしたのか?ここには真心の欠片もない。帰りなさい!」
もちろん平謝りに謝った。しかし老師は席を立ち、ついに許しては貰えなかった………。 
お坊さんはきっと甘いものが好きに違いない。自分の勝手なイメージで、まったく安易に餡子入りお餅を選んでしまった。後悔してもどうしようもなかった。
数日後、再びお寺から電話があった。来なさいという内容だった。あれだけ老師を怒らせたのだ。万に一つも撮影許可が下りる訳がない。暗澹たる気持ちでお寺に向った。途中、お土産を買って………。

「撮影を許可します」
老師の言葉に思わず腰が砕けそうになった。なぜそうなったのか、老師は何もおっしゃってはくれなかった。ただ、側にいるお坊さんが、
「君はバカだけど正直者だ。そこが気にいられたんじゃないか」
小声でそう言われた。
暫くして僕のお土産がお皿に乗って出てきた。今回はチーズケーキ、僕の大好物を買ってきた。
「このチーズケーキは美味しいです………」
恐るおそるそう言った。すると老師は、
「そうですか、では頂きましょう」
と食べ始めた。目元にはうっすらと笑みが浮かんでいた―――。

皆さん、贈り物をする時には自分の嫌いな物を選んではいけません。僕みたいに痺れる経験をする事になりますから………。

2007/9/11 火曜日

『占い』

小森陽一日記 18:28:13

振り返って考えてみると、僕は意外と「めざましテレビ」の今日の占い・CountDownに左右されているかもしれない………。

皆さん知ってますか?このコーナー。番組中2回、今日の占いを伝えるのだが、僕が見るのは番組終了直前、7時59分の方だ。と言っても毎回見ている訳じゃない。なんせその時間は、朝でもっとも忙しい数分間なのだから………。
水筒がない!帽子がない!歯を磨け!トイレ行きたい!プリント持った!?
月曜から金曜まで、娘が学校に出かける直前に毎度飛び交うこのフレーズ。うんざりするくらい代わり映えしない。そんな最中に例の占いは流れるのだ――――。

僕は特段占い好きではないし、占いの本を買って読んだり、運勢などを占ってもらった経験もない。自分の運は自分の力で切り開く―――、まがりなりにもそう思って生きている。でもだ。朝一発目、「めざましテレビ」の占いはなんとなく気になって見てしまう。やっぱり1位になると嬉しいし、ビリだと正直「なんてこった………」とブルーになる。ただ、微妙な順位でも、書いてある事がいい事だと「おっ、今日は原稿一発で通るかも」なんて思ったりする。ちなみに本日9月10日、おうし座は6位。まさに微妙な順位だ。コメントは【本番で予想外の力を発揮。ピンチでも焦らずに対処】――、とある。今日は「海師」を始め、締め切りの多い日だ。予想外の力を発揮だなんて………、いい感じで筆が走りそうな気がする。ただ、ラッキーポイントはシルクのシャツだそう………。シルクのシャツなんて一枚も持ってない。こればっかりはどうしようもない。

―――とは言え、当るも八卦、当らぬも八卦が占いだ。1位の日に最悪の原稿全没を食らったり、ビリの日に待ちに待った連絡が届いたりと色んな事がある。まさに人生とはそういうものだ。だからこそ、占いに縛られず、いい事が書いてあれば楽しみにして、悪い事が書いてあればさっさと忘れればいい。そう思う。ただそれも、見たら―――の話だ。

「行って来ます!」
ガッシャーン!!と烈しくドアを閉めて娘が出て行く。最後の最後に口喧嘩となってガサガサの気分だ。むっつりとテレビのある居間へ戻る。するともう番組は「とくダネ!」に替わり、小倉さんの長い喋りが始まっている………。今日の占いが良かったのか悪かったのか、分からない日が一番居心地が悪い………。

2007/9/4 火曜日

『夏休み総括~ラジオ体操に始まりラジオ体操に終わる~』

小森陽一日記 18:34:53

9月がやってきた。夏休みが終わった。ついにというかやっとというか………。一ヶ月半、嵐のような子供天国はようやく終わりを告げたのである―――。

思えば今年の夏休みはラジオ体操で始まった。娘の夜更かし癖を治す為に、一念発起してラジオ体操へ行く決心をしたのだ。7月は晴れ、晴れ、晴れの連発。雨で中止になる日は一日とてなかった。そんな中、実家に泊まりに行った際もラジオ体操へ向う。まさに悪夢再び――である(しかし、今はもう実家の敷地でラジオ体操は開かれておらず、近所の神社にその舞台を移していた)。
8月に突入するとますますイベントは目白押し、花火大会、能古島キャンプ、映画に花火に食事会にと子供天国に拍車が掛かる。僕は打合せと取材旅行と飲み会でフラフラになりながらも、娘と共にラジオ体操には欠かさずに行った。だが、それが途切れる日がやって来た。その日は東京へ向う飛行機の都合で、どうしてもラジオ体操へ出れなかった。
「すみません、ラジオ体操に出たいんで取材のスタート、遅らせてもらえませんか?」
言えん………。そんな事、言える訳がない。悔しかったが僕にはついに黒星が付いた………。

夏休みも残す所半分になった頃、巷で娘の皆勤賞がウワサされ始めた。本人もその事を次第に意識し始め、どんなに眠くても自発的にゴソゴソとベッドから這い出すようになった。カードが判子で埋め尽くされて行く。後幾つで皆勤賞、判子の押されていない白い部分を指折り数える日々。そして8月最終週、2泊3日、阿蘇山へ家族で旅行する時がやって来た。
「皆勤賞もらうにはどうすればいいと?」
「阿蘇山に行ってもラジオ体操ばして来たら、おじちゃんが判子ば上げる」
出発の朝、ラジオ体操を終えて、何時の間にか子供会の人とそんな約束を交わした娘、意気揚々と阿蘇へ向ったのだった――――。

家族旅行とは名ばかりである。
娘の大好きな阿蘇山ファームランドに宿泊し、娘が見たがっていた「パンくんとジェームス」に会いにカドリー・ドミニオンに行き、娘のお気に入りの場所である元気の森で遊び、阿蘇お猿の里で娘の喜ぶ猿回しを観て、娘のベストオブ遊園地、三井グリーンランドでしこたま遊んだ。気温は連日30度以上、日差しは容赦なく降り注ぐ。妻は「日焼けしたくない」と日陰に逃げ込み、僕も「キツイ、疲れた」を連発しながら少しでも涼しい場所を探す。しかし娘に容赦なく狩り出され、再び炎天下へと逆戻り。日々、屋内で過ごしている者にとって、これは紛れもない拷問である………。

ファームビレッジの中、すやすやと心地よい寝息が聞える―――。
あれだけ遊んで起きれる筈がない。午前9時起床、ついにこの瞬間、娘のラジオ体操皆勤賞への夢は途切れたのである。
――だが奇跡は起こった。ファームランドにある元気の森、ここのスピーカーからは耳慣れた曲がエンドレスで流れていたのだ………。
「嘘みたい………」
狐につままれたような気分のまま、僕は娘と一緒にラジオ体操をこなした。そして翌朝、熊本は晴れ。福岡は雨。ラジオ体操は中止となり、神懸りな展開で連続記録は守られたのだった………。

8月最後の金曜日、娘は皆勤賞という事でお菓子とトランプとバトミントンセットを手にした。実に得意気な顔で。僕はと言えば何もなし。たった一日、仕事の都合で行けなかっただけなのに………。
「パパは一日お休みしたから皆勤賞じゃないよ。来年頑張ってね」

無理………。

※「パンくんとジェームス」 天才!志村どうぶつ園で大人気のチンパンジーとブルドックのコンビ。阿蘇カドリー・ドミニオンに行けば会えます。

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