2013/3/26 火曜日

『祝、生誕45周年』

小森陽一日記 16:06:10

ウルトラセブンがこの世に降り立ってから今年で45年。なんと僕とは同い年、同期じゃないか! てっきり1歳年上だとばかり思っていた。なんだか急激に親近感が湧いてきたぞ。そんなセブンを祝う展覧会が各地で開催され、好評を博している。福岡でも本日26日より31日の日曜日まで、福岡三越にて「ウルトラセブン展」が開催されている。

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会場に入るとすぐに御馴染みの宇宙人や怪獣達が出迎えてくれる。「ビラ星人」「メトロン星人」「改造パンドン」。そしてセブンの強力な助っ人、カプセル怪獣などなど。もちろんこれらはオリジナルではない。45年も経てばゴム製の着ぐるみは当然劣化してボロボロになる。だが、奇跡的に現存するものもある。「ウインダム」の頭部が残っていたのには驚いた。ガラスケースの中に入った「ウインダム」を眺めながら、しばし高山造型に思いを馳せる。

奥に進むとウルトラ警備隊のコーナーがある。ウルトラホーク、ポインター、警備隊基地のジオラマ、そして、キリヤマ隊長とアマギ隊員が着用していた隊員服が飾られている。結構サイズが小さいのには驚いた。さぞやピチピチだったに違いない。

さらに進むとセブンの企画書や台本、撮影メモが所狭しと並べられている。M1号の西村さんコレクション。僕からすればまさに宝の山だ。ちょうど展示の準備中だった西村さんとしばし話をし、なんと金城さんの生原稿を直に手に取って読ませていただいた。感動……。金城さんの文字の力強さに当時の凄まじい勢いを感じる。

この展覧会には不肖私も協力している。僕がセブンに宛てた手紙、そして30cmサイズのガレージキットを4体並べさせていただいた。セブンとは同期だしね、どんなに忙しくてもバックアップは惜しみません!

ちょうど春休みだ。お花見、旅行、お買い物。福岡三越に立ち寄った折にはセブン展に是非足を運んでみて下さい。

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2013/3/19 火曜日

『空の物語』

小森陽一日記 11:27:25

いつかはチャレンジしてみたいと思っていた。空の物語。ここでは触れないが、個人的な事で空の事を思う日々は若かりし頃からあった。しかし、描きたいのは民航機のパイロットではなく航空自衛隊のパイロットだ。これまでに様々な人と知り合ったが、航空自衛隊の方と接する機会はほとんど無かった。
『無理をして扉をこじ開けようとしても上手くいかない』
これは持論だ。僕の前に自然と扉が現れるのを待とう。そしていつしか時間は経った。

この扉を僕に用意してくれたのは井上和彦さんだ。『たかじんのそこまでいって委員会』など様々な分野で躍動してらっしゃるジャーナリスト。井上さんを紹介されてから、空自への扉が一気に開いた。

最初は喜びでいっぱいだったが、取材が始まるとすぐにその気持ちは不安へと変わった。何しろ覚える事が膨大だった。相手が一体何を話しているのかが分からない。
文字通り半分も理解出来ない。だから質問も上手く出来ない。こんな経験は始めてだった。様々な資料を読み、映像を見て研究を重ねた。それでも後から後から知らない事が湧いてきて、いつしか取材をする足取りも重くなった。

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それでも諦めようとは思わなかった。F15やF2の離着陸を滑走路間際で見た時の興奮は今でも心の中にありありと残っている。物凄いと思った。何度も、そしてずっと見ていたいと思った。それほど心を奪われた。

戦闘機という史上最速の乗り物。そんな機体を操っているパイロットは一体どんな人達なのか。素直に言おう。普通の人達である。一緒にご飯を食べ、お酒を飲み、失敗談から家族の話、これからの夢の話まで色んな事を話した。誰一人として特別な人はいなかった。本当にどこにでもいる普通の人達だった。その時、はっきりと物語の方向性が定まった。パイロットを目指す普通の若者達の物語を書こう、と。

しかし、タイトルだけは中々決まらなかった。幾つも考えたがどれもしっくりこない。『天神』というタイトルは塾から帰る娘を車で迎えに行った時に突然閃いた。車の中で一人、娘が出て来るのをぼーっと待っていた。ふと視線を上げると信号の上に青い表示板が見えた。地名や距離が書いてある全国どこにでもあるお馴染みの表示板。そこに天神の文字が見えた時、「あ、これだ!」と思った。タイトルが決まらなかったのは、変に凝ろうとしていたからだと気付いた。普通の人達の物語なのだ。普通のタイトルが一番しっくりくるに決まっている。

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この作品を書くにあたって本当に多くの、そして力強い後押しを得た。航空自衛隊の方を始め、彼等が通う喫茶店や食堂のおじさん、おばさん。担当編集のAくん、マンガ家のSくんとTくん、ジャンプのHくん、大御所のMさん、デザイナーさん。そして、忙しい最中にあって『青春と読書』に『天神』の書評を書いてくれたアンチカ(安藤親広プロデューサー)さん。皆さん、本当にありがとうござました。この場を借りて深く御礼申し上げます。いよいよ作品は僕の手を離れ、大勢の人の元へと離陸します。一人でも多くの人に空に生きる人々の物語が届く事を願ってやみません。

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2013/3/12 火曜日

『マジっすか!?』

小森陽一日記 14:01:03

表題のフレーズ、『カミウサギ紙兎ロペ』の主人公、ロペの口癖である。アキラ先輩と行動を共にし、時々好物のカリカリ梅を食べつつ、何かあると「マジっすか!?」と言う。この東京下町が舞台のゆる~いアニメは、なんとなく見ていてなんとなく笑ってなんとなくはまった。別に無くても生活にはなんの支障もない。でも、無かったらなんか寂しい。ゆるい中毒症状を引き起こす実にヘンな作品なのだ。

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今年の頭、『紙兎ロペ』の監督に会った。その時、僕はロペ同様の反応をした。
「マジっすか!?」
なんと監督は僕の大学の後輩、青池良輔だった。
(「あおいけ」とパソコンで文字を打って変換すると、毎回「青い毛」となる。これはこれで笑える)

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しかし、この「マジっすか!?」は彼がロペの監督だったからではない。僕の眼前に立っている男が、あまりにも僕の記憶と掛け離れた風貌に様変わりしていたからだ。20年前は痩せていて、精悍な顔をし、「カナダに行って映画の勉強をします」と野望をたっぷりギラ付かせていた。それがどうだ。今じゃお腹に肉のついた怪しい無国籍のオッサンじゃないか。そりゃ「マジっすか!?」と思わず口をついて出てしまう。

実は青池良輔とは強烈な想い出がある。まだ僕が大阪に住んでいた頃の事だ。その夜、彼を始め数人の後輩達が僕の部屋に集い、夢と野望を語り合っていた。夜が更けるにつれ話題はますます熱を帯び、お腹が空いてきた。ピザでも取ろうかと話し出した矢先、その内の一人が「なんか焦げ臭い匂いがします……」と言い出した。注意して空気の匂いを嗅ぐと、うん、確かに焦げ臭い。しかも、夜中なのに窓の外がなんだか明るい。なんだろうと思ってガラリと窓を開けると、下の部屋の窓からオレンジ色の炎がメラメラと這い出しているではないか。
「わ! 火事だ!」
慌てて僕等は外に飛び出した。

ある者は消防車を呼び、ある者は別のアパートの住人を叩き起こし、ある者はアパートの大元であるガスの元栓を閉めに走った。やがて到着した消防車が火を消し、僕の部屋はなんとか延焼を免れた。しかし、火元となった部屋の住人は亡くなった。後から聞いた話だが、寝タバコが原因だったらしい。
ともあれ一件落着し、僕等は再び部屋に集って一息をついた。薄っすらと外は白み始めていた。

だが、この話には後日談がある。数日後、僕の部屋に刑事が訪ねて来た。そして何度も当日の事を尋ねられた。それも一度や二度じゃない。何度もだ。どうもおかしいと思って「もしかして僕、疑われてます?」と思い切って聞いた。すると「そうですね」とにべもない返事。驚いた僕は重ねて理由を聞いた。すると、「手際が良過ぎる」という答えが返ってきた。そう、消防車を呼んだり、近隣の人を起こしたり、アパート全体に供給される大元のガスの元栓を閉めたり、そんな後輩達の大活躍が、逆に警察の目には手際が良過ぎると映ったのだ。

もちろん事件性は無いとして僕の疑いは晴れた。しかし、腹の虫は収まらない。
「お前らの手際の良さのせいで俺は警察から放火の疑いを掛けられたぞ!」
だが、怒鳴る前に青池良輔は海の向こうへと旅立って行った……。

そんな彼と何の因果か再び合間見える事になった。確かに人相風体は変わったが、ハートは昔と変わっていない。やはり骨の髄までモノ作りだ。さてさて、どうしよう。面白い事を始めるにはうってつけだ。世間を「マジっすか!?」と言わせてみるとしようか。

2013/3/5 火曜日

『全てを停止させる狂著』

小森陽一日記 10:26:54

まったくおっそろしい本があったものだ。読み出すと全ての事が手に付かなくなる。続きの事ばかりを考え、何をしていても上の空。次第に睡眠時間は削られていき、身体が不調を起こす。だが、やっぱり無視出来ない。手に取らずにはおれない。そしてまた今夜も白々と夜が明ける……。

スティーグ・ラーソンの処女作にして絶筆、「ミレニアム」。第一部「ドラゴン・タトゥーの女」、第二部「火と戯れる女」、第三部「眠れる女と狂卓の騎士」を遅まきながら読了した。ストーリーもさる事ながら、著者がどうやってこれほどの情報を集め、まとめ、表現出来るのか、気になって仕方がなかった。スゥェーデンの政治、経済、地理は言うに及ばず、盗聴やハッキングまで網羅するパソコンの深い知識、雑誌社や新聞社の内幕、警察の捜査の仕方、弁護士や検事の法廷での戦い方、秘密のベールに包まれた公安組織の動き、そして美味しいコーヒーが飲める街角の店まで、兎に角ありとあらゆる事を知っている。その桁外れの取材力、知識力に強く惹きつけられた。だから、著者の妻(法律的に云々ではなく、普通の感覚ではこの人は妻だ)エヴァ・ガブリエルソンが書いた「ミレニアムと私」もすぐに手に取った。
「ミレニアム」を書くにあたってほとんど取材はしていないという事に愕然とした。

『誰もが生涯に一冊は傑作を生み出せる』
誰の言葉だったか忘れてしまったが、そんな感じのフレーズを覚えている。自分の人生に起った体験や経験はスペシャルだ。家族や友人と日頃どんな話をしているか振り返ってみれば分かる。自分の見聞きした事、想い出、感想、話題の大部分はそれらで成り立っている。スティーグ・ラーソンもエヴァ・ガブリエルソンと一緒に様々な体験をし、沢山の話をしてきた。喜びや怒りや悲しみ。希望や失望。夢。三十年という年月の中で色々な事が蓄積され、やがてその結晶として「ミレニアム」が生まれていった。この作品は創作物でありつつも、ある意味二人の自伝でもある。
ここには二人分のスペシャルな人生譚が詰まっているのだ。それはもう大傑作な筈である。

もちろん、スティーグ・ラーソンが一発屋だったなどとは毛頭思わない。この凄まじいとしか言いようのない物語を紡ぐ力は尋常じゃない。はっきりいって規格外だ。出来れば「ミレニアム」の続きを、そして新たな物語を幾つも読んでみたかった。でも、もうそれは出来ない。

神様は時として本当に残酷な事をする。圧倒的な才能に恵まれた人をふいに神の国へと連れ去ってしまう。スティーグ・ラーソンは50歳という若さで突然この世を去った。心筋梗塞だった。「ミレニアム」が出版された事も、その後ドラマ化、映画化され、世界中の人が魅了された事も彼は知らない……。

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