2012/2/28 火曜日

『CHANGE』

小森陽一日記 10:56:13

紆余曲折、時に喜び時に焦り、時々奈落の底へと落ちて行きそうな気分の時もあったが、ようやく小説を脱稿した。まだまだこれから修正などあるが、取り合えず「終」と打てた事に由としよう。バンザイ!!
――という事で今回は本繋がり、思いっ切り頭の中を切り替えられた作品の話をしようと思う。
  
一つはコレ、
『絶望名人カフカの人生論』 フランツ・カフカ 頭木弘樹編訳 飛鳥新社
帯には「誰よりも落ち込み、誰よりも弱音をはき、誰よりも前に進もうとしなかった人間の言葉」とある。そんな言葉が一体どんなものであるのか、縁日のお化け屋敷よろしく、ちらっと覗いて見たい気になるのが人情だ。しかもそれがあのカフカの言葉とならば、尚の事。
読後の感想としては……いやぁ、面白かった。それもただの面白さじゃない。ネガティブな思考もここまで突き抜けると、いっそアッパレで清々しくさえある。

「ミルクのコップを口のところに持ち上げるのさえ怖くなります。
そのコップが、目の前で砕け散り、破片が顔に飛んで来ることも、起きないとは限らないからです」
「ちょっと散歩をしただけで、ほとんど三日間というもの、疲れのために何も出来ませんでした」
「ぼくは三十七歳。もうじき三十八歳です。でも、不眠と頭痛のせいで、髪がほとんど白くなりかけています」

こんな情けない後ろ向きの文面が、それこそゾロゾロ出て来る。『ある朝目覚めると巨大な虫になっていた』から始まる「変身」、僕もこの作品には相当な衝撃を受けた。今でも変な感じが胸の内にまとわりついているくらいだ。二十世紀における最大の作家の一人と言われ、今も沢山の人にリスペクトされ続けているカフカ。そんなカフカが独自の思考と言葉で「前ばっかり見てないでたまには後を見たり、座ったり、寝転んだりするのもいい。それは何も恥ずかしい事じゃない」と教えてくれる。もちろん滅茶苦茶ネガティブに。

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もう一つはコレ、
『グラゼニ』 原作 森高夕次 漫画 アダチケイジ 講談社
帯には「プロ野球選手の絶頂期と言われるこの26歳のとき、年俸1800万円ってのは全然ダメなんです!」とある。へ? そうなの……?って。一野球ファンとしてちょっと引っ掛かった。そんでもってチラ見したら、もう完全に釣られてしまった。知り合いにプロ野球選手が何人かいるが、このマンガを読んだら思いっ切り彼等の見方が変わってしまいました。こんな野球マンガ読んだ事ない。それくらいスペシャルな作品だ。グラウンドには銭が埋まっている――。これぞプロ野球。打者だろうが投手だろうが、結果を出せば人気も年俸も上がり、女子アナやモデルと結婚出来る。反対に結果が出なければ人気はなくなり年俸も下がり、二軍に行って、クビを宣告されて、次の就職先を探す事に……。天国か地獄しかないプロの世界、その丁度中間辺りに「グラゼニ」の主人公、八年目の中継ぎ投手、凡田夏之介はいる。
自分より年俸が低い打者には上から目線で抑え切り、反対に年俸が上だとビビッて痛打を食らう。しかし、1億以上の年俸を貰っている相手だと、想像が付かなくてなんとなく抑え込んでしまう。なんという絶妙なさじ加減の設定だろう……。
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いやぁ、2012年のシーズンが楽しみだ。まさか年俸見ながら野球観戦するなんて、こんな新味を与えてくれた「グラゼニ」に感謝だ!

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