2010/3/30 火曜日

『艶な世界』

小森陽一日記 10:41:42

日頃よりお世話になっているマスターに声を掛けて頂き、大衆演劇を観に行った。もちろん初体験である。大衆演劇というものに僕の持ち合わせている知識はほとんどない。なんとか絞り出して出て来るものと言えば、たけしさんの「座頭市」でおきぬの弟清太郎を演じた橘大五郎、それから女形で有名な劇団朱雀の早乙女太一、時々テレビのドキュメントなどで見掛ける旅から旅の公演旅行の様子くらいだろうか。兎に角何の前知識もない状態で芝居小屋に向かった。

場所は博多駅にほど近い博多新劇座、公演は藤実一馬座長率いる「劇団KAZUMA」。僕は仕事を終えて第二部より観劇したのだが、歌に踊りにお芝居に、それでも2時間を有に越す中身の濃い時間を体験させて頂いた(一部から観ると3時間15分だそうである)。

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いやぁ、なんとも不思議な時間だった。髷に刀に着物はもちろん、白粉の香りが小屋の中に満ち溢れる。ここは一体何時代なんだ?と思い巡らす暇もなく、団員達が流し目キリリと凛々しい若侍で登場したかと思いきや、次は艶姿に濡れた唇の美人へと早替わり………。舞台で舞い踊る男とも女ともつかない存在にオバサン達が群がり、着物に万札で出来たお花をピンで留めていく。間近で見ると呆気にとられた………。それは、蛍光灯に引き寄せられる羽虫の姿にも似た光景だった………。

その後、座長の藤実さんと一緒に飲みながらお話をさせて頂いた。話をしながら僕は不思議な感覚を味わっていた。目の前の人は、ついさっきまで口が達者で悪知恵の働く悪党の親分を、惚れ惚れするような涼しい立ち役(男役)を、そしてピンクに輝く濡れた唇で観客を惑わせていた女形をやっていた人………、分かる気もするし全然違う感じもする。ただ、耳にすっと入って来る太くてハリのある声だけがまごう事なき本人であると告げていた。
藤実さんの話はどれも面白かった。面白いというと失礼で語弊があるが、それでもまったく初めて聞く想像もつかないような話に耳を奪われた。またいつか機会があれば、話の続きを聞いてみたい。

まだ未見の方、一度大衆演劇をお試しあれ。なんともクセになりそうな世界がそこにありますよ。

2010/3/23 火曜日

『今年もサクラサク』

小森陽一日記 14:19:22

「サクラサクころに ありがとう 心から キミに伝えられるよきっとまた心配かけても 笑顔で迎えてくれるでしょ?」

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―――と、北乃きいちゃんが透明な声で唄ってる。そう、今年もまた桜が咲き始めた。こちら福岡は七分か八部咲きといったところ、満開まで後数日という感じだ。しかし、北海道は札幌の最高気温は1℃だって………。寒い………、まだまだ冬真っ盛り、桜なんてイメージも出来ないだろうな………。

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お寒いと言えば本日のホークス、16対5ってなんですか?1回に4点、2回に10点って………、開幕して三試合目、確かに144分1の事かもしれんが、こんなお粗末な試合やってたら「今年も優勝は厳しいバイ!」と言わざるをえませんな! 地元に戻って仕切りなおして頑張れ!!暖かいしね。

さて、時々耳にする女性陣の質問にこんなものがある。
「男ってどうしてそんなに野球が好きなの?」
ビールと摘みとナイター中継、これは世のお父さんの三点セットだ。何を譲ってもこれだけは譲れない、そんな男性陣も多いだろう。さて、女性の皆さん、この本を読めば少しはその謎(気持ちかな)が解けるかもしれない。伊集院静さんの「ぼくのボールが君に届けば」と「駅までの道をおしえて」、野球好き、野球バカ、野球愛………、様々な角度から人と野球が語られていて、誰かの下手くそな言い訳を聞かされるよりよっぽど心に響くと思います。お試しあれ。

2010/3/16 火曜日

『生について』

小森陽一日記 14:55:16

「ハート・ロッカー」を観た。2004年イラクの夏を舞台にした、アメリカ陸軍爆発物処理班の物語である。穴凹だらけの路上、強い日差しの下風に煽られて砂塵とゴミが舞い、イラク人が家の窓や柱の影から冷たい視線を投げ掛ける………。そんな中、毎日毎日、ただ淡々と爆発物処理班は爆弾を解体し続ける。ゴミの中、瓦礫の隙間、土の中、自動車のトランク、子供の死体の腹の中、生きた人間………、いたるところに爆弾があり、爆発したら確実に死が訪れるという最中、今日も彼等は淡々と爆弾を解体する………。

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生あるものには必ず死が訪れる。そして死はいつ訪れるか予想はつかない。何十年も先かもしれないし、30分後かもしれない。誰にも分からない。しかし、爆発物処理班は違う。死が予測出来る。解体に失敗すれば即、「死」………なのだ。確かに英雄的な行為なのかもしれない。しかし、どこか淀んだ目をして、酒を飲み、タバコを吹かし、同僚と殴り合いをしてヘラヘラ笑う主人公を僕は好きになれなかった。映画を観ている間中、ずっと心がザラザラしていた………。先日こんな本を買った。「超訳 ニーチェの言葉」、ドイツの哲学者ヴィルヘルム・ニーチェの簡潔な言葉が並んでいる。その中にこんな一文がある。

少しの悔いもない生き方を
今のこの人生を、もう一度そっくりそのままくり返してもかまわないという生き方をしてみよ。
                      ???? 「ツァラトゥストラはかく語りき」

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爆発物処理班、彼等はもう一度そっくりそのまま今の人生をくり返しても構わないと思うだろうか………?そんな事は絶対にない、と思う。誰一人として自分の死が予測出来る、そんな人生を送りたいわけがない筈だ。つくづく戦争はイヤだ………。正義の戦争などと言っている奴が一番嫌いだ。そんなもの、どこにもあるわけがないじゃないか。あるのは「死」のみだ………。

第82回アカデミー賞、作品賞、監督賞、脚本賞などなど主要な賞を総なめにしたこの「ハート・ロッカー」、同じく主部門でノミネートされていた「アバター」はそのほとんどを「ハート・ロッカー」にさらわれた。アカデミーのSF嫌いは今に始まった事ではないので驚く事は何もなかったが、出来れば作品賞は「アバター」に獲って欲しかった。「アバター」は物語だ。しかも純粋な「生」の物語。人間の想像力を駆使して出来上がった最新の映像で、太古の昔から存在する純愛を描いた物語、僕は圧倒的にこっちが好きだ。

2010/3/9 火曜日

『ワンパラ』

小森陽一日記 15:58:00

今年もJKCの訓練競技会が行われた。先週上京した時もそうだったんだが、汗ばむくらい暖かくなったかと思えば、マフラーにコートでフル装備が必要なくらい寒くなったりする。それが一日おきに訪れるから堪らない………。しかして開催日の天気は生憎の底、冷たい北風がビュービュー吹きつけるそりゃもう震えるような一日だった………。

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右を見ても左を見てもグラウンドには犬、犬、犬………。自慢の愛犬達が一同に介し、あちこちで飼い主同士の犬談義が咲き乱れ、駐車場に停まった車の隅やテントの陰にはビニール袋に包まれたウンが、これまたほかほかと狂い咲きしている始末。 
競技会に行って毎回思うのは、「犬好きな人ってこんなに沢山いるんだ………」と言う事。老いも若きも性別も関係なく、話し掛けたり撫でたり触ったり、泥んこの足でジャケットやジャンパーに判子を押されても、ヨダレやら抜け毛やらをマフラーに付けられても怒る人はいない。まさにワンワンパラダイスだ。

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出発時間の若干の遅れと、カーナビの誘導ミスと、悪天候による競技の迅速化の為、なんと愛犬マイの本番には間に合わなかった………。代わりに応援したのは、マイと一緒にずっと訓練を行っているパピヨンのアロンくんだ。S訓練士の動作を食い入るように見つめて歩いたり座ったり跳ねたり、そりゃもう頑張っていた。アロンくん、お疲れ様でした。

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マイは全10科目中7科目まではパーフェクトだった、らしい。しかし、絶好調の時には大ポカもする。そのポカが出て表彰台には届かなかった………。ただ総合点数は高く、沢山ポイントも頂いたという事だ。

訓練となるとほんとに目の色変えて喜ぶマイ。遊びの途中に訓練を混ぜると見違えるほど機敏な動きを見せる。あのキレの良さは見ていてこっちも気持ちがいい。これからもマイの好きな事を支えてやろうと思う。

2010/3/2 火曜日

『死の装飾』

小森陽一日記 15:33:22

週末、2つの催し物に出掛けた。図らずも、どちらも「死」を扱ったものだった。誰でも生まれたら必ず死ぬ。凡人だろが偉人だろうが貧乏人だろうが王様だろうが。死………、自分にはどんな死が訪れるのだろう?死んだ後はどうなるんだろう?様々な死のイメージ、時を越え、人種を越えて表された2つの死の装飾に惹き付けられた―――。

一つは「トリノ・エジプト展」、薄暗い館内に古代エジプトの彫像がズラリと並んでいる。それは王の坐像であったり、時を刻んだステラ(石碑)であったり、色とりどりの図柄が施された棺であったり………。中でも古代エジプト特有の美しい棺には心奪われるものがある。再生と復活―――、古代エジプト人が信じていたオシリス信仰、その事を信じて墓が作られ、遺体はミイラにされた。死は眩しいほどに飾られ、次なる生を待つ。終わりではなく永遠に輪廻していくというイメージ………。途端に死が怖くなくなっていく。これは凄い事だと思う。

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もう一つは「コルテオ」、楽しみに待っていた甲斐があった。これまでシルク・ドゥ・ソレイユの作品を3本観劇したが、オープニングから一気に心奪われたのはこの「コルテオ」だった。
クラウンはベッドに横たわり、自分の葬儀を思い描く。楽団の音楽が鳴り響き、頭上から天使達が舞い降り、様々な参列者がクラウンに話し掛け、時にはベッドを踏み越え通り過ぎて行く。華やかなで賑やかなパレード、死を悼むという葬儀の場がどこかお祭り騒ぎじみて、猥雑で奇妙な心くすぐられる世界になっていく………。

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死を飾る―――。人であるから、生きているからこそ、人は死を飾る事にしたのかもしれない。自分が死んだ時、寂しくないように………。僕はどうしよう、すべての怪獣キットを連れて兵馬俑みたく賑やかにやろうかな。何千年も経って僕が土の中から見つかった時、怪獣キットに囲まれているのを見たら、その時の人はなんと思うだろう?シシシ………これは中々面白そうだ。

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