2007/6/19 火曜日

『授業参観』

小森陽一日記 19:45:43

「これが主語、これが述語。では、この真ん中の文は何語というでしょうか?」
先生の問いに子供達の手が上がる。
『何語………?』
娘が手を上げたまま、僕の方を見る。物書きのパパなら当然分かってるよね、と言わんばかりに………。   
「それじゃみんな一緒に――」
「修飾語です!!」  
忘れてた………。教室の後の方で、のっけから変な汗を掻いた………。

今日は娘の小学校の授業参観日。土曜日だけあって、教室の後や廊下にはお母さんだけでなく、お父さんの姿も目立っている。授業は国語、テーマは「文章を作ろう」というもの。まるで僕に合わせてくれたようなテーマに、すっかり上機嫌で黒板を眺める。だが、機嫌がいいのは最初だけだった。出鼻を修飾語でつまづいた僕は、今度は先生の例題を見た途端目を疑った。
「ぼくは 東京にしんかんせんで 行きます」
そう………、飛行機嫌いの僕は上京する時、よほどの事がない以上新幹線を使う。だが、福岡から東京に新幹線で5時間掛けて移動する物好きはそうはいない。ほとんどの人が飛行機を使う。圧倒的少数派を例に取るなんて、例題としてはいびつ以外の何ものでもない。
『この先生、僕を狙い撃ちしてるな………』
その瞬間、笑顔は消えた―――。

残り時間、先生の話に真剣に耳を傾けた。狙い撃ちしているのなら倍にして返す。最高の例題を作る事、それが物書きのプライドだ。
「僕の家の虫かごには チョウなのかガなの誕生してみなければわからない サナギがいます」
どうだ、このセンス、不思議さと面白さとちょっとした科学が一文の中に織り込まれている。これぞ例題ってもんだろう。だがそんなプライドはすぐにへし折られた。
「宇宙人」を主語にする子、臨場感を交えて鹿児島のおじいちゃんにバナナを届けた話を披露する子、一見するとガキ大将のような子が「みんなで頑張りました」なんて事を言う………。素晴らしい。僕にはとても思いつかない例題が目白押しだった。
娘よ、ゴメン………。パパは授業参観ではなく授業参加をしてしまいました。

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