2007/7/24 火曜日

『地鎮祭』

小森陽一日記 17:49:11

「地鎮祭」 
地を鎮める祭と書く。文字通り、工事を始める前に土地の神を祝って敷地を清め、工事中の安全と建物が、末永くその場所に建っていられることを願うお祭り。

―――という訳で、今回の話題は地鎮祭である。先日、地ならしされた我が家+仕事場が建つ事になっている土地の上に、テントが張られ椅子が並び、祭壇が作られた。祭壇には米や酒、塩のほか、大根や人参などの野菜と一緒にバナナやパイナップルなどが備えられている。随分食べごろなのか、パイナップルからは甘~い匂いがプンプン立ちこめ、小蝿が飛び回っていた………。祭壇を囲むように笹竹が置かれ、巡らせた注連縄から垂れた紙がヒラヒラと夏の風に揺れている。視線を下にやると、三角錐の形に砂の山が盛られ、真ん中には稲が立てられている。ニュースや映画でよく見る光景だ。4歳の時に実家でも地鎮祭をやったらしいが、僕は保育園に行っていたので立ち会うのは今回が初めてという事になる。

やがて神主さんの御祓いが始まり、立ったり、頭を下げたり、座ったりを何度か繰り返す。そうこうしている内に神主さんが僕に鎌を手渡して来た。現場監督に事前に教えられた通り、盛砂の所へ進み出て、「エイ!エイ!エイ!」と声を三度上げながら鎌を振り、最後に稲を抜いて地面に置いた。上手く行ったのかどうか不安なまま集まった人達をチラリと見る。みんな神妙な顔をして下を向いたままだ。ただ一人、ニヤニヤして僕を見ている娘の視線だけが気になった………。妻と娘が鍬を振り、現場監督が杭を打ち、最後に関係者一同が榊をお供えして滞りなく地鎮祭は終了した。

正直、自分が家を建てているという事自体、まだ違和感がある。というよりどこか現実ではない、御伽噺のような気がする。いつかこのブログにも書こうと思うが、僕の大学時代、そりゃぁもうドの付く貧乏生活だった。バイト代も仕送りも、すべて自主映画の制作費に継ぎ込んで、挙句、栄養失調で病院に担ぎ込まれたほどである。そんな奴が家持ちになるなんて………、何かの冗談ようにしか思えない。そんな事を思い巡らせていると、神主さんがお神酒を持って近づいて来た。お酒は好きな性質なので、遠慮なく飲み干す。すると今度は別のお神酒が出てきた。呑み比べてみて下さいと言われ、再び飲み干す。
「どうです?味が全然違うでしょう」
言われてみれば、片方はまろやかだったような気がする。
「神棚に置いておくと、こんな風に味が変るんですよ」
味が変る―――、そのフレーズで、昔流行ったピラミッドパワーを思い出した。三角形の中にブラックコーヒーを入れると、神秘の力で甘くまろやかなコーヒーになるのだ。オカルト好きの友達に何度もコーヒーを飲まされた。
「な、味が変っただろ、甘くなっただろ」
言われてみればそんな気もする。言われてみないとそんな事はないような気もする。   
現実と御伽噺は常に背中合わせ………、でもまぁいいか、信じる者は救われる。数ヶ月後にはここにドーンと家が建つと信じよう。

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